「えっ、ちょっ……きゃあぁぁぁぁぁ!」

 彼は素早く口ずさむとセシリーをひょいと体の前で抱え、建物を飛び出すと地面を踏み切る。彼と自分の周りを薄緑の光の膜が包み、ふたりを空へふわりと運ぶ途中、セシリーの頭に自慢げな父の記憶が浮かんだ。

『――我々の使う魔法にはふたつの発動形態がある。詠唱と魔法陣。これはどちらも自身のイメージを魔力に伝達する過程として重要な……娘よ、聞いてくれているか――っ!?』

 この時のセシリーは目の前を横切る蝶に夢中でほとんど聞き流していたのだが、意外と自分の記憶力もばかにならない。先日の魔法騎士団長の治癒魔法と立て続けで、セシリーは身をもって魔法の便利さを体感することになった。

(ひえぇ……。せ、正門に馬車を止めてるんだけど、後で伝えてもらえばいっか)
「ええと、どの辺りか教えてもらえると助かるかな」

 集中しているのか真剣な表情で告げるラケル。