ぐっと唇を噛み締めてジェラルドを見上げるラケルとその隣に立つリュアンが……投げかけた質問にセシリーの口から考える前に言葉が出た。

「帰りたい……皆のところへ。でもそれはできないよ……見ちゃったもん、色んな人が月の聖女のことで苦しんでるのを。このまま私だけなんの区切りも着けずにこの国を去るのはいけないと思うんだ」
「そら見ろ、彼女も自らの立場をわかってくれている。何も考えずに下らぬ自らの希望を押し通そうとしているのはお前らの方だ」
「いや、それは違う。あんたらがセシリーを自分たちの都合に無理やり付き合わせ、縛り付けているんだ。本来必要のないあんな事件のことまでこの子に話して苦しめるなんて……! やはり、セシリーはあんたの元へは置いて行けない!」
「……ならば、剣で勝負をつけてはどうか」

 睨み合う格好になった兄弟の間を割るかのように進み出たのはオーギュストだった。

「私も親として、騎士団の青年たちの言葉には同意ですし、可愛い娘に辛い役目を強いる男の元に嫁がせるのは死んでも御免だ。……しかし、国民を守るためというジェラルド殿の気持ちも、わからなくはない。おそらくこのままでは、話は平行線――本気でレオリン王太子がこの事を問題として提起なされば、今まで友好であった両国の関係に深い亀裂が生まれかねない。それが現状で、例えようのない愚かな選択だということが、お二方にもわからぬわけではありますまい。いかがですかな?」