マイルズから婚約破棄を受けた日、セシリーはリュアンに救われた。しかしその結果……色々な物事が複雑に絡み合い、因縁に導かれるようにセシリーはオーギュストの手を離れ、月の聖女として王国の長い歴史の表舞台に立とうとしている。

「私はただ、セシリーに平和で幸せな生活を与えたかっただけなんだ……しかし色々と気を回した結果が、娘をより大きな苦難へと追い込んでしまった。あなたたちのところの副団長にも厳しいことを言ったが……私も父親失格ですな」
「僕は……違うと思います」

 自嘲気味にこぼすオーギュストに異を唱えたのは、それまで静かに話を聞いていたラケルだった。

「娘さんは、セシリーは……団長や僕らに出会った後どうでしたか? もし毎日が辛そうで塞ぎ込んでいたなら僕らは彼女に謝らないといけない。けど、彼女はいつもとても楽しそうに僕らと一緒に働いてくれた。あの笑顔が嘘じゃないなら、これまでの毎日はきっと彼女に取っても価値ある時間だったと思うんです! セシリーは僕たちと出会ったことを後悔していないはずだ!」
「オーギュストさん……俺たちは、セシリーの気持ちを尊重したいと思ってここに来たんです。彼女が月の聖女として王家に仕え、役目を果たすことを胸に決めたのならそれでもいい。でももしセシリーがそれを願わず、もしファーリスデルの王都で暮らしていた頃に未練があるなら……! オーギュストさんや俺たちと一緒に毎日を送りたいと願ってくれるなら、できる限りのことをしたいと思うんです……」