ラケルはあえてここまで事情を聞いていない。『王都に行くことになったら、その時に話す』――団長のその言葉を信じていたからだ。

 しかし、ここへ来てもリュアンは無言を貫いている。そしてなぜ、セシリーを連れ去った者たちが王都に行くことを予見したのか。そろそろ真実を問いたださなければならない、そう思っていたラケルは口を開こうとして、わずかな気配に気づいた。

(尾行……?)

 リュアンも気づいていたらしく、目線で隣を歩くラケルと意志の疎通を交わし、人気のない路地裏に踏み込む。そしてある程度進んだところで、密やかに魔法陣を指で描くと後ろへと駆けた。発動するのは短距離を瞬く間に移動する『瞬駆』の魔法……これを他に扱える人をラケルは知らない。

「何の用事だ?」
「ヒィッ!」

 鮮やかな魔法の光を散った後、すでにリュアンは尾行者の背後に回り込み、剣を突き付けていた。薄汚い襤褸(ぼろ)をまとうひとりの男は、あわてて両手を腕に上げる。