結局、うんともすんとも言えずにセシリーはレミュールを慰め、ベッドに入るのを見届けて自分の部屋に戻る。その手には、レミュールから渡された一冊の日記があった。親元に送り返されたの遺品の中にあった物をジェラルドが譲り受け、三年前の再会の時に渡してくれたのだという。

 セシリーは自室のベッドに潜り込みながら、白銀の手鏡と共に枕元に置いて、それを眺めた。

 日記には、等身大の十代前半の少女の想いが綴られていて、時には親元を離れた寂しさや、厳しい魔法の修練の苦しみなども書かれていたが、彼女の素直で芯の強い性格を表すように最後は必ず明日の自分への励ましで終わっていた。ジェラルドや第二王子であるレイアムなる人物についてや……もちろんレミュールやマーシャとの関わりも本当に楽しそうで、日々のひとつひとつを克明に切り取って、大切に保管したいという彼女の想いが感じ取れる気がした。

 最後のページに挟まれた、花の形をした銀の小さなお守りが可愛くて口元を緩ませた後、ベッドの傍に置かれた魔道灯を操作して消してセシリーは思い耽る。

 この先……自分は一体どう動くべきなのだろう。月の女神から明かされた事情、心に決めた約束、ジェラルドたち三人の複雑な過去。そして……自分自身の望み。

 色々な人がセシリーに願い、頼み、命じ、求める中……大狼は決めるのはセシリーだと言ってくれた。だから、自分でとことん考えなければ。

 色々な出来事をバターになりそうなくらい、形になるまで頭の中で、ぐるぐるぐるぐる回し続ける。そんなことしていると、いつしかその夜、不思議な夢をセシリーは見ることになった。