そしてラナを死に追いやったマーシャが自死を選ぶほど思い詰めたため、ジェラルドは宮廷魔術師に彼女の記憶を封じさせたという。ラナやレミュールと出会ってからの辛くも楽しい……こんなことがなければいつまでも心の中で宝石のように仕舞われていたはずの、あの輝かしい三年間を含んだ長い時間の記憶を……。


「――情けないことに、子供みたいに一晩中泣いてしまったわ。そんな私をジェラルド様は、ずっと傍にいて慰め、謝ってくれた。彼はなにも悪いことはしていないのに……。全部の責任を自分で背負って、見捨ててもよかったマーシャの命を掬い上げて、この場所に戻してくれたのに……」

 レミュールは悲しそうに笑うと、セシリーの手を取った。

「お願い、セシリー。あの人を幸せにして上げて……。ラナを失って、それでもマーシャを罰することもできなくて、きっと今もあの人は私たちをここに集めた王家と自分をずっと責め続けているのよ。このままじゃ誰もあの人を救ってあげられない。ラナと同じ聖女の資質を持つ、あなたにしかもう、できないの……!」

 気丈そうに見えたレミュールの瞳から、大粒の涙が溢れ出すのをセシリーは何も言えずに黙って見ていた。彼女の痛ましい思いはセシリーの胸にしっかりと届いたけれど、それでも……自分などにジェラルドを救える資格と力があるとはとても思えない。