(ありがとう。でもリルルにはラケルがいるでしょう? 何かあったら、彼と一緒に居てあげてよ)
(いいんだよ、あんなヤツ。セシリーがこんなところに閉じ込められちゃったのに中々助けに来ないし。今更来たってお尻をがぶってやってさ、ひいひい言わせて追い返してやるんだから)
(そんな事言わないの。きっと団長たちと一緒に私たちを探してくれてるわよ)

 ぐるぐると唸るリルルをなだめながらゆっくりと庭園を巡るセシリーの後ろには、今も十人以上の兵士が並んで、魔術師までいる様子だ。護衛とはいえ、安全なはずの王宮内でこの数は物々しすぎる気がする。

 ふと途中で終わったジェラルドの話を思い出した。前の月の聖女が亡くなった原因はわからないが、聖女の存在を疎んじる者がもしいるなら、自分自身も身辺に気を遣った方がよさそうだ。

(なんだか、考えることが多すぎて……いらいらばっかり溜まっちゃいそう。これじゃダメね……よし、リルル体を動かそう!) 
(走るの! やった!)
 
 セシリーは華美な衣装の裾を上げて駆け出した。後ろからなにやら制止を求める声やら悲鳴が聞こえているような気がするが、気にしないことにする。

 そうして彼女は小一時間ほどいい汗をかきながらドタドタと庭園を走り回り、リルルを獣舎に戻すと、甲冑姿の兵士やローブ姿の魔術師がしゃがみ込むのを尻目にひとりすっきりした顔で離宮へと戻っていった。