冴えない令嬢の救国譚~婚約破棄されたのちに、聖女の血を継いでいることが判明いたしました~

 今まで傍にあった森も、狼たちやジェラルドたちの姿もどこにもなく、ただ漂白されたような真っ白な空間だけがそこに広がる。足元の大地すら存在せずに、セシリーはその場所でただ漂っていた。

「……私、何してたんだっけ」

 とりあえず、セシリーは両手を振り回してひとしきり藻掻いてみるが、その場から移動することはできず途方に暮れる。その内に頭の中でしていた耳鳴りのようなものが、はっきりと言葉にして聞こえるようになってきた。

「……すめ……娘よ。滑稽な娘よ、何を奇妙な動きを繰り返しているのです」
「泳げるかなと思ったんですが……どこにも行けなくて」

 いつの間にやら胸の前に拳大の光球が出現しており、セシリー同様水底にいるかの如くゆらゆらと上下している。

「ここはどこでもありませんし、どこに行くことはできませんよ。距離も、時間も、場所という概念すら有りませんから」
「ふ~ん……よくわかんない。ところで、あなたは?」
「ここに来る前に、お前の目の前に立っていたでしょう?」

 ここに来る前、と言われて思い浮かぶのは、天を突くような古い巨木の幹だけ。