冴えない令嬢の救国譚~婚約破棄されたのちに、聖女の血を継いでいることが判明いたしました~

「おそらくな。上に上げるぞ」

 ジェラルドにゆっくり移動させられ、白い毛の間に跨ったセシリーを確認すると、大狼はのそりと起き上がり湖の方に入ってゆく。本来なら怯えが先に立ちそうなものだが、なぜかセシリーはその時、何の不安も感じなかった。

 幸い水はそれほどの深さはなく、セシリーはそのまま巨木の前まで連れて来られる。すると大狼は、セシリーに触れてみなさいとでも言うかのように、長い顔を前に振った。

 セシリーはその背中で立ち上がると、ゆっくりと前に進んで狼の頭を支えにするようにして、苔むした木の幹に手を伸ばし……そして触れた。





 ――瞬間、溶け込むかのように木と体の境界線が感じられなくなり、気付くとセシリーは白い世界の中に立っていた。