在りし日の姿を取り戻した、銀白の手鏡。セシリーはそれを見てうっと表情を曇らせる。差し出してくれた手鏡を彼女たちの手前突っ返すこともできず、それに映る自分の顔を見るがピンと来ない。

「そんな顔しないで……ある事件の後、これまで離宮を訪れた多くの人がこの鏡の真の姿を望んだけれど、ついに誰も取り戻すことは叶わなかった。それを成し得たのだから、あなたは間違いなく、月の聖女なのよ」
「そうですよ……あたしたち、セシリーさんが来てくれてこれまで諦めていた気持ちに希望が持てたんです。ジェラルド様があなたと結ばれたら、もうこの場所は必要なくなります。そうすれば、彼はあんな悲しそうな顔をしに、ここに来なくてもよくなりますから」

 マーシャが少しだけ沈んだ顔で俯いたが、彼女たちばかりを心配しているわけにもいかない。セシリーにはセシリーの事情があるのだから。

 これまでは成り行きに従うほかなく、こんなところまで連れられて来てしまったが、月の聖女として国を救う云々はともかく……ジェラルドと結婚して王妃となるなど、断固として拒否したい。

 しかしこの場でセシリーの味方になってくれそうな人間はひとりもいない。ならば……自分の手でなんとかやってみるしかない。