「ふふふ。素直でよろしい」

 年下の団長(いじ)りに余念がないキースに、リュアンが頭を下げた時だった。

「――団長、失礼しま~す!」

 ノックもせず入って来たのは、先日セシリーの元に姿を見せた二人組の騎士のもう片方、若い赤髪の騎士だ。彼はふたりの様子を見てきょとんとする。

「あれ、なんで団長がキース先輩に頭下げてるんですか?」
「下げてない。……対人格闘術で懐への潜り込み方を指南していたところだ」

 とっさにリュアンの口から言い訳がついて出る。赤髪の騎士は嫌味のない性格で、人の失態を触れ回るような人間ではなかったが……女性関係でキースに頼みごとをしていると知られるなど、なんとなく団長としてのプライドが許さない。

「執務室の机越しにですか?」
「どんな状況でも対応するのが魔法騎士の務めだ。こう、素早く腕をかい潜り、首を(ひね)る」