その直後に目の前でこんな輝かしい光景を突き付けられた今の気持ちを言えと言われたら、彼女は迷わずこう答えるだろう。

(……よりによって、こんなめでたい日に伝えなくてもよかったんじゃないの?)





 事は十数分前。王都の一角にある瀟洒(しょうしゃ)なカフェで、その話はつまびらかにされた。

「――婚約を破棄するって、急にどうしてなの?」
「ああ。今時親同士の決めた相手と結婚するなんてつまらないだろ? だから、自由にしてあげるよ」

 そんなことを、さもセシリーが望んでいるかのように言いだしたのは、パレードを彼女と一緒に回る約束をしていた婚約相手、マイルズ・イーデル。公爵家の令息で、悔しいことに容姿は金髪金目、中々の美男子である。

 だが彼が、ひどく自分本位な人間であることは疑いようがない。なぜなら今、彼の肩にはすでに新しい女がしなだれかかっている。これさえなければまだ、この恩着せがましい言葉も言い訳くらいにはなり得ただろうに。