冴えない令嬢の救国譚~婚約破棄されたのちに、聖女の血を継いでいることが判明いたしました~

 動揺するセシリーの手を取ると、ジェラルドはそれをしっかりと握らせ、強い瞳で見つめる。

「いや……できるはずだ。お前はあの森で白狼たちに迎え入れられたではないか。あの様子だと、月の女神からの託宣(たくせん)も受けたのであろう。今は魔力を操ろうなどと考えるな。それを持ち、守るべき者の姿を強く思い浮かべろ……父でも、友人や家族、恋人でも、なんでもいい。それだけに集中するのだ……。今は周りは見なくてよい」

 王都までの道行きの途中、ジェラルドはセシリーをある森へと連れて行った。そこでの出来事を思い出させようとするかのように彼は、座り込むセシリー両肩を強く掴み、顔を強引に合わさせる。顔立ちはほとんど似ていないのに、その雰囲気は……どこかやはりリュアンに重なる。

「さあ、目を閉じ、呼吸を落ち着かせろ。大丈夫だ……お前なら皆を救える」
(そうだ……私には幸せになってほしい人たちがいる、それだけは間違いないもの……!)

 セシリーは言われた通り手鏡の柄を両手で握り締めると、今は彼を信じ、大切な人たちの顔を思い浮かべ一心に祈る。肩を支えるふたつの手の熱さが、今は頼もしかった。

 自分にはちゃんと母サラの血が流れている……そのことだけは自信を持って言える。だからきっと、大丈夫なのだとセシリーは自身を励まし、誰とは言わずに願った。私に皆を助けるだけの力を与えて下さいと……。