忌々しそうに自分を止めたオーギュストの手を振り払うと、ジェラルドはゆったりと背を深く座席に押し付ける。その顔には隠し切れない苦悩が滲んでいた。

 そのままジェラルドは瞳を閉じ、しばし馬車は北へと走る。色々と尋ねたいことはあるものの、オーギュストも深く考えに沈んでいて、セシリーは口をつぐみ視線を小窓の外へ移す。

 気がつけば、空からは小雨がぱらつき始め、灰色の暗雲が視界の上半分を覆っている。セシリーはふいに心細くなった。それはこれから訪れる苦難を暗示し、困難な道のりになることを警告しているように思えたのだ……。