「リーシャにはあまり似ていないな。悪くはない顔立ちだが……。よく男で一つでここまで育て上げたものだ、なあグスタフ」

 男のその呼び方に、オーギュストは抗議した。

「そろそろ昔の名を呼ぶのはやめていただきたい。リーシャいう女も、グスタフという男ももう今はどこにもいない」
「わかったわかった、そう怒るな。そこのオーギュストとやらとは顔見知りだが、娘、お前とは初対面だ。一応名乗っておこう。オレは、ジェラルド・セルキス・ガレイタムという」

 そこで彼は一旦言葉を切り、発した名前の意味が、少しずつ彼女の頭の中に沁みこんでくる。

「……まさか。ガ、ガレイタム王国の……!?」
「そう、この国の王太子を務めている」
「そ、そんな――失礼致しましたっ!」

 セシリーは座席に座った状態で、可能な限り頭を下げた。しかし彼はつまらなそうに手を振っただけだ。

「楽にするがいい。しかるべき場ならともかく、お前らに礼儀など期待しておらんわ」