「猿芝居はよせグスタフ。貴様がオレの顔を忘れても、こちらは忘れぬわ」
「ぬっ――!!」

 姿を一目見たオーギュストは息を詰め、何かを言おうとしたが、男はそれよりも早く距離を詰め剣を振るう。

 護身用の剣を目にもとまらぬ速さで抜くと、オーギュストはそれを頭上で受け止め横に逸らした。続けて男と数度切り結ぶが、セシリーの目では追えない。魔法騎士たちの模擬戦で見た打ち合いと遜色ない、それどころか上回る程の本気の父と男の腕前に、セシリーは目を丸くした。

「でやっ……」
「ぐっ……元騎士団長の腕前は健在というわけか」

 一度大きく相手を突き放し距離を取ったオーギュストに男は舌打ちする。彼の指が光を纏い魔法陣を描いたのに、警戒を強めた周囲が動こうとする。

「待て、ここまでだ。本気にするな、少し訛っておらぬか試しただけだ」