今から二十数年前、当代のレフィーニ家長女であったリーシャに対する期待は相当に大きかった。当時の王太子が幼かったため聖女候補には選ばれなかったが、年が二十を数える頃には厳しい教育を受けて育った彼女の魔法の才は開花しており、その才能はいずれガレイタム王国に生きる魔法使いたちの頂点、宮廷魔術師長に抜擢されてもおかしくない……などと噂されるほどだったという。

 優秀な魔法の才を持つものほど、生き方を選ぶことは難しくなる。国に仕えるか、家を捨て流浪の生活を送るか選べと言われれば、ほとんどが前者を選ぶはずだ。たとえそれが、生活の保障の引き換えに自由を失うことと同じであっても。

 年若かったリーシャはそんな生き方に疑念を抱きつつ、ある日グスタフとこの村で出会った。それは互いに拠り所のなかったふたりにとって、天の配剤と言えるものだったのかもしれない。

 国もレフィーニ家も血眼でふたりを見つけ出そうとしたが、魔法を駆使して姿や名前まで変えて逃走した、元実力者たちの足取りを追うことは至極困難だった。

 見事追手を(かわ)し切り、新たにオーギュストとサラという別人として生き始めたふたりは、やがて自然とお互いを求め合い、ふたりの間にセシリーという命を宿した――。