しかし、いくら心を砕いても未来など見透せるものではなく、いくつかの計算外が娘の将来を今また苦難に引き寄せようとしている。あの婚約破棄の件にしてもそうだ。謙虚堅実でその名を知られたイーデル公爵の息子マイルズが、外面を取りつくろっただけの愚物(ぐぶつ)ということも見抜けず……そしてよもや、娘がこうして生きているうちに、あの『大災厄』の復活が近づいているとは……。

(どうして、今なんだ……!)

 私は膝の上に強く手を打ち付けた。キース殿が娘の協力を頼みに来た時以来、私はずっとこの胸に問いかけられているように感じている。

 ――娘一人を守るため、多くの人命を犠牲にするのかと……。娘可愛さでセシリー自身に選択を委ねず、災厄を鎮める力を持ちながらそれを見過ごさせ、救うべき人々に背を向け逃げるのかと。

 彼がそう言ったわけではなくとも、娘を差し出さないということは、そういうことなのだ。なぜなら、私は知っている……隣国ガレイタムに伝わる銀の聖女の血統は、今や……。

「――お父様、いるの?」