夜半仕事から帰った後……私は革張りのイスに深く腰掛け、妻の肖像画を入れたペンダントをじっと眺めていた。このところずっとこんな調子で、外でも仕事に身が入っていないのを自覚している。

「サラ……あの子はもうずいぶん大きくなってしまったよ」

 重いため息が口をついて出る。本来ならばいつも隣にいて、共に娘の成長を見守ってくれるはずだった妻は、もうずっと前にいなくなってしまった。

 娘を守るために戦い、妻だけが命を失った……。そのことは私の中に深い傷を残している。自分こそが死ぬべきだったのだと……命を絶つことすら考えたが、手の中にはまだ物心ついて間もない娘の命があった。

 以来、娘のことだけを思って生きた。ガレイタムを出てファーリスデルに国籍を移したのも、娘の安全を慮ってのことだ。

 幸い、あの髪飾りに掛けた魔法も功を奏し、娘は自らに眠る魔力も、受け継いだ血のことも知らずにすくすくと普通に育ってくれた。亡き妻との約束を守り、そんな娘をの成長を見守ることだけが、後に遺された私の何よりの生きがいとなった。