何か粗相をしたらと思うと気が気ではない。つい数日前まで、彼らとは何の面識も無かった私がどうしてこんな絶望的な環境下に置かれるに至ったのか、私自身も理解したくはない。できることならすべて忘れてこの場を飛び出し、一目散にファーリスデル王国へ逃げ帰りたい。

 でもこの身ひとつではそれはできないし、どうにかしてあの国に戻るためには、現状をしっかり把握しなければならない。それにはやはり一度、少し前から記憶を(さかのぼ)る必要があるだろう。

 すべては、私の望みから始まってしまったのだ。生い立ちを……母のことを知りたいとそう望んだことから――。





 誘拐事件から五日も経つと、リュアンは持ち前の回復力を発揮して完治したと判断され、医院から魔法騎士団へと戻っていった。喜ぶべきことなのだが、その姿を見送った次の日、セシリーはクライスベル邸にて自室で退屈そうにテーブルに顔をくっつけていた。

「あ~っもう、お父様の馬鹿! って言っちゃいけないわよね、今回は」