「マイルズよ、息災であったか」
「ち、父上……ご機嫌麗しゅう」

 しかし、マイルズは今の父と気安く接しようとは思えない。イーデル公爵は以前には無かったような凄味と威圧感を備え、風貌まで変わったような気さえして……思わずマイルズは現れた彼の前に膝を突く。

「楽にしてよいぞ。今回の件が失敗に終わったのは残念だったな」
「そ、そうなのです……! あやつら、どんな方法を使ったのかあの地下牢を破壊して脱出したと! 私に流れる尊きイーデル家の血を侮辱した奴に裁きを下すいい機会だったのですが……」
「心中察するぞ息子よ。しかし諦めるな……必ずや復讐の機会はまた巡ってこよう。私も存分に協力しよう」
「あ、ありがとうございます父上! 必ずやあのリュアン・ヴェルナーを額づかせ、当家に楯突いた報いを受けさせてやりましょう!」
「うむ、期待しておるぞ。では少し話を詰めるか」

 そうして、マイルズは父を招き入れ、使えない使用人を蹴り出すと扉を閉める。その日は遅くまでリュアン貶める算段を父と語らい、帰ってゆく彼を最高の気分で見送ると、改めて固く誓った。