彼女とマイルズとの出会いは、数か月前のこと。父にセシリーと親交を深めるよう命じられたマイルズが、このベジエ男爵の屋敷を間借りし始めたころ、開かれた夜会で彼女を見かけた。

 一目惚れだった。しかし、父の命令に逆らうわけにもいかないしと悩むマイルズに、少し前に直接王都を訪れた父が、見透かしたように言ってくれたのだ。お前に欲しい女がいるなら、今の婚約を破棄し結び直しても構わないと。たちまちマイルズはイルマの虜となった。

 しかもイルマは容姿が整っているだけでなく、妙な魔法を扱える。その力を借り、魔法騎士団相手と聞いて行動を渋った弱腰のならず者たちにリュアンを襲わせることができたものの……途中で邪魔が入ったのか、彼は仲間たちに助けられてしまった。

 無能どもに任せず、もし自分で手掛けていれば……そう考えもしたが、直接手を下すのは、人の上に立つ人間のやることではない。やや消化不良の気分を抱えながらも、マイルズはじゃれついてくるイルマをあやす。

「ねえマイルズぅ……。邪魔な人たちを始末したら、ちゃんとイルマのこと奥さんにしてね? お願いよ?」
「当たり前じゃないか。父上の跡を継いで結婚したら、次は君の力を使ってもっと人を操り、僕の言いなりになる人間を増やしてやる。そうすれば、いつかもしかしたら、王様にだって成れるかもしれない。そうなれば僕らに逆らうやつなんていやしないのさ。気に入らない奴らは、指の一振りで処刑してやる!」