息を荒げながらひとしきりそうした後、マイルズはソファに荒々しく座ると爪を噛んだ。

 先程出ていったのは、マイルズの父の配下のしがない子爵だ。

 彼が手配したならず者は頼りにならず、リュアン・ヴェルナーとセシリーを捕らえ、服従を誓わせる計画は中断してしまった。順調にいっていれば、彼らの身柄は今頃自分の目の前にあり、頭を踏みつけ靴を舐めさせてやることだってできただろうに……。

「せっかくイルマが手伝ってあげたのにね~。でも、いいじゃない、あのリュアンとかいう男前を結構痛めつけてやれたんでしょ? セシリーちゃんも」 
「いいや、まだまだこんなものじゃ済まさないさ……。この僕に逆らったんだ。せいぜい苦しんで、華々しい表舞台や王都には、二度と姿を現せないようにしてやる」
「さっすがマイルズ。あなたならきっと、お父上の後を立派に継げるわぁ。早くあの城を手に入れてぇ、ふたりで贅沢三昧の生活を送りましょ?」
「ああ、その時は君も晴れてイーデル公爵夫人だ。王妃を除けばこの国で最上級の暮らしをさせてあげるよ」

 マイルズは隣に座る少女の陶器のように滑らかな頬に口づけした。今回大きな役割を果たしたのはこのイルマだ。