「ほらどうした、怖くて動けねえだろ? 斬られるのは痛えんだぜ……? なあ」

 ひたひたと、冷たい金属が頬を叩き、酒臭い息が顔にかかる。
 セシリーの身体は震えていたが、しかし眼差しだけは強く、男から外さない。

「その目をやめろ……」

 男は頭目から厳命されたためか、ナイフを顔から外し、その切っ先をドレスの胸元の中心部に向けた。それは布地を貫通し、針で突かれたような小さな痛みが発生する。

 それでもセシリーは言い放った。

「あんたの言うことなんか聞かない! 私たちは、間違ったことなんかしてない!」
「このアマがッ!」

 激高した男がナイフを上に振り、ドレスが浅く引き裂かれた。
 そして男は、セシリーの髪を側頭部の髪飾りごと握り締め、顔を引き寄せようとした。耳の傍でパキリと小さな破壊音が鳴り、思い出の品との別れを告げ……。

 ――視界が、明るく弾けた。