ラケルは魔法陣で呼び出した火の玉をなんとか維持しながら、それに詠唱を加えた。すると、それはぱっと明るい輝きを放って広がり、光のシャワーとなって地面へ降り注ぎ、板張りの床を焦がすことなくゆっくりと消えた。その美しさにセシリーは瞬きを繰り返す。

「……びっくりしたぁ。魔法って、そんなこともできるんだ」
「セシリーが僕にしかできないことはあるって言ってくれたから、考えてみたんだ。戦うこと以外にも、できることがあるかも知れないって……」
「そ、そうなの?」

 ちょっと照れて視線を下ろしたセシリーが何か言うのをラケルは待っていたが、後ろで訳知り顔で頷くジョンを見るとこっそり肩を寄せ、ふたりはこちらに聞こえない声で囁き合う。

(……違いますからね)
(いやいや、隠さずともよいではないか。魔法陣と詠唱を連動させるのは、中々の高等技術だというのに。どうせ、彼女を喜ばすために覚えたのだろう? ふっふっ、いつの間にか大きくなりおって)
(……お師匠様は相変わらず、僕の話を聞いてくれませんよね)