「……行ってくるよ、リルル」
「ワウ!」

 ラケルは屋敷の敷地内に小屋を構えてもらったリルルに言葉をかけ、顔をわしゃわしゃ撫でくりまわしてから街へと繰り出した。今日は師匠から頼まれて、いくつかの店に魔法薬を卸しに行くのだ。

「ええと……《我が身に宿りしは、古き(おお)いなる人の力》! よっと……」

 今では週に一度あるこの時だけがラケルの気晴らしになっていた。彼は腕力を強化する魔法を掛けると、一抱えもある木箱をいくつか持ち上げ、商店をまわり出す。

 いくつかの宅配をこなすかたわら、ラケルは王都を眺めた。活気がある街並みの中には、ところどころに魔法の力で動く道具……人の手に寄らず、夜になったら灯る魔道灯や、声を大きくし遠くまで響かせる拡声筒などが置かれている。