冴えない令嬢の救国譚~婚約破棄されたのちに、聖女の血を継いでいることが判明いたしました~

 この魔力に満ちた大地でも、それらを操る才を宿した人間はごく稀にしか生まれない。彼らは魔法使いと呼ばれ、十分な適性を示した者は、多くが幼少期から国に召し抱えられる。市井の中で姿を見ることは少ない。

 セシリーはリュアンを見て初めて、魔法は発動する際に魔力を集中する箇所だけでなく、使用者の瞳も光らせるのだと気づいた。目にも鮮やかな紫紺の瞳がふたつ、黒い前髪の隙間に輝いている。

 そのあまりにも美しい光景は彼女に、持つ者と持たざる者の(へだ)たりを大いに知らしめた。足首の痛みは治っても、心の痛みはひどくなるばかりだ。

「ほら、治療は終わった。立てるだろ」

 素っ気なく冷たい声を出したリュアンは、セシリーの手をつかんで強引に立たせる。でも彼女はつまらない自分が本当に恥ずかしく辛くて、駄々っ子みたいにその場にしゃがみ込む。

「なんだ、動けないのか」

 そんな様子に勘違いしたのか、彼は面倒くさそうにセシリーを足元から(すく)い上げ、横抱きにしてしまう。