セシリーも時計塔を観光目的で訪れたことはあるが、王都を一望できる展望台からの眺めは、それはそれは素晴らしいものだった。建てられて数百年も経つあの建物が今も綺麗な外観を保っているのは、王家が国の象徴として徹底的に維持管理していることと、物質の劣化を停滞させるような魔法が使われているせいだと、中で説明を受けた記憶がある。

「あの時計塔は、わたくしが生まれるよりもはるか前からこの町を見守り、時を知らせてくれています。幼い頃からこの町で暮らす私たちにとっては、家族のように馴染み深いもので……だからか、最近何か違和感を感じるのです。少しずつ鳴らす鐘の音が、(きし)んだものになっているような。それが少し不安で」

 沈んだ表情のメイアナがそう告げたのに、セシリーは掛ける言葉を持っていなかった。なぜなら彼女は生まれがそもそもこの国の出身ではないし、王都に来たのも比較的最近だ。

 しかしキースは違う。セシリーは彼の表情が珍しく、一瞬だけ固まったのに気付いてしまった。何か思うところがあるのか……彼女が問おうとする前に、キースは不安を打ち払うような陽気な声で告げた。