冴えない令嬢の救国譚~婚約破棄されたのちに、聖女の血を継いでいることが判明いたしました~

(わ……!)

 その目鼻立ちに、地面に転がされていた彼女の目は即座に釘づけになった。

(なんて……綺麗な瞳。こんな色見たこと無い)

 筆舌に尽くしがたい美しさの、毅然とした紫紺の瞳がまず目を引く。他にも少し長めの濡れたように艶めく黒髪や、すらりとした体躯、端正な相貌など……水際で一輪孤独に咲く桔梗のような、婚約者だったマイルズなどとは格の違う美青年。黒い鎧を身に(まと)う彼は、縛られて体を起こせないセシリーのもとに歩み寄り、その剣を抜いた。

(――――!!)

 恐怖に身をすくめたセシリーの耳にぶつぶつという音が届くと、縛られていた四肢が解放される。ついで口元のさるぐつわも外され、彼女は大きく息を吸いこんだ。

「……大丈夫か?」
(はーっ、はーっ……。助かった? 助かったんだ)