冴えない令嬢の救国譚~婚約破棄されたのちに、聖女の血を継いでいることが判明いたしました~

 男が腰から抜いたナイフを、その人に向かって投げ放つ。きらめく刃は見事に頭部に命中する軌跡を描いた。だがそれは、途中で鞘に入った剣で弾かれ、甲高い音を立てると路地へと消えていく。

「くそっ……」

 不利と見たか、すぐさま男はセシリーを投げおろし逃走に移る。しかしそれも予想の範疇(はんちゅう)だったらしい。

「遅い」
「ぐぁっ!」

 目の前を横切る黒い影はそれを許さず、俊敏に駆けて追いつくと、剣を振りあげ男の背中を一撃する。骨でも折れていそうな酷い音がした。

「ぐえっ!」
「……心配するな、これぐらいじゃ死なん……さて」

 どっと鈍い音を立て男が崩れ落ち、セシリーが(つむ)っていた目をおそるおそる開くと、その人物はこちらを振り返る。