冴えない令嬢の救国譚~婚約破棄されたのちに、聖女の血を継いでいることが判明いたしました~

 なんでもやって、可能性を探して、一度でいいから自分で選んだことをやりとげてみたかった。こんな終わり方が訪れる覚悟なんて、まるでしていない。

(嫌だよ、こんなの)

 セシリーの頬を伝う悔し涙が、ぽたぽた地面を濡らす。それを男が(わら)い、足を踏みだした時……声は響いた。

「あんた、何してる」
「――――ッ!」

 男が鋭く息を呑む。

 ひとりの人影が後ろからセシリーたちを飛びこえ、道を塞ぐように目の前に立ちはだかる。明らかに普通の跳躍ではなく、人影の周りに揺らぐ薄明りを見て、魔法使い――そんな言葉が頭に浮かぶ。

「人さらいは重罪だぞ。大人しく縄についてもらおうか」
「ちぃっ!」