それはなにを隠そう、リュアン・ヴェルナーその人であった。彼を伴ってここに来ることになった始まりは……セシリーがキースに、今日の午前中、商会を訪問するので一旦外出したいと伝えたことからだ。クライスベル商会から騎士団に納品される品々は、定期的に馬車で運ばれてくるが、なにせ取り扱っている品数は膨大(ぼうだい)で紹介しきれないようなものもある。

 なので、セシリーから何か足りないものが有れば言って欲しいと申しでたところ……キースは、隣にいたリュアンに同行するように声を掛けてくれた。渋るリュアンもキースに「あなたが女性一人で気安く外出するなと言ったのでしょう?」と言われると、苦い顔して小さくわかったと呟いただけだった。

 彼はそんな不満をおくびにも見せず、外向けの紳士的な表情を取り繕ってルバートに応対する。その態度に好印象を持ったのか、ルバートも自分より大きく年下のリュアンを殊更(ことさら)丁寧に扱った。

「これはこれは、お噂はかねがね伺っておりますとも。此度(こたび)はクライスベル商会を御贔屓(ごひいき)にしていただき、従業員共々御礼申し上げます」