冴えない令嬢の救国譚~婚約破棄されたのちに、聖女の血を継いでいることが判明いたしました~

「っ……!? げほっ、な、なにを……」

 背中を強く打ち息が詰まる。頭がくらくらして起きあがれないセシリーを見下ろし、男は頬を強くはたく。

「あうっ!」
「やかましい女め、黙ってればまだ可愛げがあったのにな。静かにしてろ」
「うぅ……やめてよ」

 たちまちセシリーの手足は縄でしっかりと縛りあげられてしまった。先程の笑顔の面影はどこにもなく、男の表情には今やどす黒い欲望が(たた)えられ、まるで別人だ。

「着てる服からすりゃ結構いい家の御令嬢なんだろ? あんたみたいのを買いたいって奴は結構いるんだぜ?」
「買うって、なに。私を、どうするつもりなのよ……」
「まだわからないのか。あんた、これから人買いに売られるんだよ! まったく、いいとこのお嬢さんが一人で出歩いてるのが悪いんだぜ」
「――――っ! むぐっ、むーっ!!」