パパの3倍の財産?嘘でしょ?

「パパ…今おばあちゃんの言ったこと、本当?」
「本当だとしても関係のないことだよ」
「綾、本当よ。多分お義父さん名義だけでそれくらい。お義母さん名義のものは知らないけれど、分散させているから同じくらいあるかもしれないわね。あ…でもお義父さん名義の不動産と株式しか知らないから預金を含めたらもっとよね」
「やめなさい。人の財産の話などしても今後の身のためにはならない。綾は一人暮らしの練習をした方がいいと思う。ちょうど昼過ぎてるな。昼食を作ってみたらどうだ?」
「えーいきなり?」
「その前に、その爪は」
「ネイルね」
「そのネイルは取りなさい。工場規則だからね」
「こんなのじゃなければいいの?鈴も短いけれどしてるでしょ?」
「ダメだ、工場内で働くにはネイル禁止。鈴とは違う仕事になる」
「えぇ?ネイル禁止なの?鈴の仕事をするわ」
「鈴が続けてきた仕事を綾がやって比べられるようなことは、綾が一番嫌なことだろう?」
「それはそうだけど…」
「鈴とは違う仕事を一からきちんとやりなさい。本社の秘書課では分からなかった、人の口に入る物を作る責任とやりがいを感じて欲しいと思う」

パパの製薬会社社長としての思いを理解したいとも思うけれど、鈴が私より‘上’だとか‘多い’っていうのは気にくわない。でもおじいちゃんたちの年齢までにはパパももっと稼ぐだろうし大丈夫ね。

沖田さんの耳に鈴の噂が入るということは工場に誰か知り合いがいるということだから、私も皆に信頼される働きを見せて噂を届けてみせるわ。