自分で言うと、おかしいと言われても。
 私は断言できる。
 私は、美人だ。

 自己肯定感が誰よりも強くて。
 男性社会で生きてきたせいか、よりいっそう。
 自分は美しくて誰にも負けないという誇りを持って生きている。

 貸衣装屋さんで、一番安いドレスを借りて。
 シナモンに手伝ってもらいながら、身支度をした。
 歩いて行ける距離だったけど。
 馬車を借りて、渦中の伯爵家へと乗り込む。
「俺とホムラさんは適当に紛れ込むから、ミュゼとシナモンさんは堂々と入口から入って。坊ちゃんの奥さんですって言って取り返してほしい」
「…上手くいくかなあ」
「駄目な時は、武力行使だ!」
 どう考えても、成功率は低いけど。
 やるしかない。
 何よりも、シナモンが侍女として本来の仕事が出来ると大喜びなのだ。
 具合悪いのは大丈夫かと言ったら。
「楽しいことがあるのに、休んでなんていられますか!」
 と噛み付く勢いで言われたので、ドン引きしてしまった…

 日がどっぷりと暮れる時間帯。
 問題の伯爵家は、想像していたよりも小さいなと思った印象。
 庭で酔っ払いがギャーギャー騒いでいて。
 なんて、下品なパーティーなのだろうと思った。
 新人の頃、貴族の護衛の仕事をしたことがあるから知っているけど。
 こんなにショボいパーティーというのは、なかなかない。

 庭園にいるオーケストラ隊。
 数人の酔っ払い。
 案内係、給仕の人間の姿はない。
 庭園を突っ切ると、屋敷の扉は全開になっていて。
 ドアマンさえも、いない。
 部外者が颯爽と歩いているというのに、誰も咎めない。
 セキュリティーゆっるゆるだなあと思いながら。
 中に入ると、エントランスにソファーと椅子が置いてあって。
 そこに、問題のご婦人と鈴様がいた。

 ご婦人は、THE☆貴族という。
 予想通りの姿だ。
 盛り髪ヘアと言えばいいのか。
 髪の毛をこんもりと頭上に盛って。
 髪の毛には、幾つもの花が刺さっている。
 頭がフラワーアレンジメントだなあ…と思いながら。
「ごきげんよう」
 と言うと、婦人は一度無視してきたので。
 もう一度、大きい声で「ごきげんよう」と挨拶をした。

 鈴様に向かって一方的に話していた婦人は私を見た。
「そちらにいらっしゃいます、鈴様の妻。エアーです。主人がお世話になりまして」
 と、なるべく大声で言った。
 そして、すぐに鈴様を見て、「なんか言ったら殴るからな」ぐらいの勢いで睨みつける。

「まあ、貴女がドラモンド家のお嫁さん!? まあ、ちゃっちいドレス」
 ソファーから立ち上がらずに、婦人は扇子で口元を隠しながら言った。
 鈴様はきょとん…という表情で私を見ていたが。
 後ろに立っているシナモンを見て、驚いて口をパクパクして何かを伝えようとしている。

 婦人からは少し離れたところにいるとはいえ、
 キツい香水の匂いに吐きそうになった。
 ギラギラしたドレス。
 分厚い化粧。
 そして、見下すような目で私を見るのは婦人だけではない。
 側に仕えている侍女、執事たちだ。

「主人を返していただけますか?」

 さっさと返してくれないかな…。
 私は精一杯、婦人を睨んだ。