「さあ、先輩。気を取り直して神様に祈願しに行きましょう」


気を取り直してって、勝手に男扱いしといて君が言わないでよっ。


しかし、不貞腐れた私を置いて朝比奈君は賽銭箱の置いてある拝殿に向かって歩き出す。


「ちょっと、待ってよっ」


私も急いで朝比奈君の後を追いかけた。

神社なんて、初詣くらいにしか訪れる機会はない。


いつもなら、健康を願ってお参りをするが、今、神様に叶えてもらいたい
願い事はただ一つ…───。


私は賽銭箱の前に立つと、お財布から1000円札を取り出すとそれを賽銭箱に投げ入れた。


「1000円札とは奮発しましたね」


「当たり前でしょ。絶対ヒットさせたいんだから……。」


私は両手を合わせて懸命にお祈りをする。

しかし、朝比奈君はというと、財布から堅実にも5円玉を取り出してそれを賽銭箱に投げ入れた。


「そんなんじゃ、神様はヒットさせてくれないわよ。」


「僕……神様とかそういった類のものは信じてないので」


朝比奈君はそう言って手を合わせる。

……じゃあ何故ここへわざわざ連れてきたのよ?

しかも神様の前でそんなこと言わないで欲しい。

こちらにまで罰が当たりそうだ。


「先輩の願い事はヒット祈願だけですか?」


「当たり前でしょ。朝比奈君は?」


「僕は……先輩の高所恐怖症が治りますように……と」


「…………それはありがとうッ」


私は投げやりにお礼を言った。


「先輩。あとはおみくじでも引いて帰りましょう。」


朝比奈君は私の投げやりな物言いにフッと微笑むとおみくじ売り場に歩き出した。


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