失恋タッグ

しかし、そんな私を朝比奈くんが見逃す筈もなく···


「先輩···まさかとは思いますが──
高いところ駄目な人ですか···?」


誤魔化そうかとも思ったが、今の私にはそんな余裕すらない···


私はオジサンの後頭部を見つめたまま、コクリと頷いた。


「なぜ先に言ってくれないんですか」


朝比奈くんは呆れたように大きくため息を吐いた。


朝比奈くんの言うことはごもっとも···


見栄を張って高所恐怖症を隠して乗った挙げ句、このザマだ。


もう先輩としての威厳は丸潰れだ···


すると、朝比奈くんは恐怖で固まっている私の後頭部に手を添えると···そっと自分の方へ引き寄せ、朝比奈くんの胸に私の額を押し付けた。



「こうすれば、恐くないですか···──」



朝比奈くんは優しい声色で問う。



「怖くはないんだけど···──
恥ずかしいわ···」



これでは傍から見れば、イチャツイてるカップルにしか見えない。

後輩と言えど、男性の大きな胸板に、違う意味で鼓動が早くなる。



「そこは我慢してください」



「ごめんね···」


折角の景色なのに、一緒に楽しむ余裕はない。


「…役得ですから…───気にしないでください」



「ありがとう…」



「……フッ··……·いえ」


それから山頂につくまでの間、私はずっと朝比奈くんの胸に額を預けていた。


朝比奈君のほんのり甘い爽やかな香水の香りに包まれると、まるで抱きしめられているような錯覚に陥ってしまう。


私は“彼は後輩だ。意識するな”とずっと心の中で呟いていた。