失恋タッグ

それから車を30分ほど走らせて着いた場所は人々で賑わう商店街だった。
私が愛読している全国食べ歩きガイドの本にも掲載されていた場所だ。
今年度版で特集も組まれていた商店街で、来たのは初めてだが、おすすめのグルメはなんとなく把握していた。

早速、人気のコロッケ店で牛すじコロッケを朝比奈くんに買って貰うと、私は熱々を頬張りながら目を細めた。


「んんっ!!朝比奈くん、これおいしい〜」



「先輩、こっちのチーズカレーコロッケも絶品ですよ。衣が驚くほどサクサクしてます。」


私達がコロッケにかぶりつく度に、サクッと耳にも届くほどに美味しい音が響く。


「ほんとね。今まで食べた中で一番サクサクしてるかも」


「サクサクの食感は、食べたときに味覚や嗅覚だけでなく聴覚も刺激するので、より人の記憶に残るそうですよ。」


言われて見れば、コロッケを見るとサクッとした食感を思い出してついつい買ってしまう。


「食感のインパクトって大切よね··」


私は朝比奈くんの雑学に感心したように呟いた。


「はい···あっ、先輩っ。向こうで焼き鳥売ってるみたいです。行ってみましょう」


「うんっ。」


私は思わず友達と会話する感覚で相槌を打つ。

すでにこの時点で私のご機嫌はすっかり直っていた。

それどころか、美味しいお店を前に私の気分は最高潮だ。


おでんにたこ焼き、クレープに鯛焼き····



私達は下町の情緒溢れる町並みに癒やされながら、食べ歩きを楽しんだ。


「ああっ、お腹いっぱい。
今日の夜の分まで食べたかも」


私は満足顔で自身の膨らんだお腹を擦る。


「先輩、あそこの山の山頂に有名な神社があるんです。ちょっと行ってみましょう。」


「えっ。あの山···?」


朝比奈くんの指の先を目で辿ると、商店街の先に小高い山があった。


「流石にあそこまでは無理よ」


お腹が一杯で正直、あまり動きたくない。


「大丈夫です。ロープウェイがあるのですぐ着きますよ」


「ロープウェイ····」


私はその名に顔を強張らせた。

鯛焼きを食べながら歩く朝比奈くんは、そんな私の顔色に気づく様子はない。

困ったな···どうしよう。

実は私···、極度の高所恐怖症なのだ。

結局、楽しそうな足取りの朝比奈くんを前に私はそのことを言えないまま、ロープウェイの乗り場に着いてしまった。