失恋タッグ

「北村先輩と組まされなくて良かったです。
もし組まされてたら、商品が完成する頃には肉体改造されていたでしょうね」


朝比奈君は連れ去られる前澤君を憐みの眼差しを向けている。


「フフっ。大丈夫よ。
栞奈もそこまで無茶させないと思うから····多分ね」


私も何度か栞奈に誘われたことがあったが
毎回のらりくらりと誘いを交わしていた。

栞奈の通うボクシングジムはボクササイズのような生易しいものではなく、
本格的な格闘技ジムだ。
 
一度、試合を応援しに行ったことがあるが、
女性同士といえど、あまりにも痛々しい光景に冷や汗ものだった。


私には無理だ。


「それじゃあ、僕たちもミーティングルームに行きますか?」


朝比奈くんは自身の机の上に置いてあったノートパソコンを手に取った。


「そうね。」


そして、二人並んでミーティングルームへと向かった。

うちの会社のミーティングルームは、設置されたパネルで空き部屋を確認できたり、予約できるようになっている。

朝比奈君がパネルで空室になってる小部屋を選択して、ミーティング時間を入力している。

手持ち無沙汰の私は、廊下に貼り出されている社内掲示板に足を止めた。

うちの掲示板はお客様の声にフォーカスしたものになっている。

私は自分の手掛けた商品に対するお客様のコメントを見つけて目を留めた。

そこには商品に対するお客様の感謝の言葉が綴られていて、嬉しくて思わず目を細めた。


「せんぱぁい、お疲れ様で〜す」


すると、今の私にとっては耳障りな甘い声が横から聞こえてきて、細めていた目が真顔に戻る。