失恋タッグ

本当に朝比奈君と話していると調子を狂わされる。


「そんなことより···ちゃんと朝比奈君と組めるように頼んでくれるんでしょうね?」


「大丈夫ですよ。先程、秋月先輩と組むことの了承を得てきましたから」


「えッ?もう?····了承って誰に?」


あの15分足らずの間にどうやって交渉をしてきたのだろう。


私の問いに朝比奈君は少し困った顔をしている。


「まあ、、それは…───。」


朝比奈君は言おうか言うまいか悩んでるようだ。


「それは?」


「秘密です···」


「なんでよ?」


「僕がその人に頼んで融通してもらったことを、あまり知られると困るので。その人も立場があります。」


営業本部長···だろうか?

それとも···まさか常務に直談判とか?


色々と想像してしまうが、朝比奈君にそう言われるとこれ以上突っ込んで聞くことはできない。


頼んでもらった手前、朝比奈くんにもその人にも迷惑をかけては申し訳ないからだ。


「そう。分かったわ。言いたくないことを無理に聞くつもりもないし。」



「そうしてもらえると、助かります」


「それじゃあ、改めてこれから宜しくね」


私は朝比奈君に向かって右手を差し出した。


「はい。こちらこそ···」


朝比奈君は私の差し出した手を握ると、
その手を凝視したまま固まっている。

そろそろ手を離したいのだけど···。

しかし朝比奈くんは私の視線に気づいて、パッと手を離した。



「先輩、もう始業時間始まってますよ」



「····そうね。行きましょうか」


踵を返して給湯室を出ようとした私は
「あっ、そう言えば、言い忘れてたわ。」
ふいに思い出して振り返った。



朝比奈くんはそんな私を見つめながら首を傾けた。


「ありがとう。
お陰でなんだか吹っ切れそうだわ。

朝比奈くんがうちの部署にいてくれて良かった...」


きっと、朝比奈君がいなかったら、
私は大好きなこの仕事を諦めてた…。


私は小さく微笑むと給湯室を出た。