僕は席を立つと、休憩室へと向かった。

何か秋月先輩を繋ぎとめる方法はないだろうか。

僕は腕組みをしたまま、廊下を歩く。

そして、休憩室の前で止まるとドアノブを回してドアを開けた。

すると、中でベンチに座り、一服する須崎専務と目があった。


・・・・・・・。


無言でドアを閉めようとする僕に、
「おいっ、航、待て待て」
と、中から須崎専務の呼び止める声が聞こえた。

僕ははあっと面倒くさげに息を吐くと
再びドアを開けて休憩室へと入った。

「人の顔見てドアを閉めようとするとは、お前は相変わらずだな」

須崎専務は煙草をふかしながら、苦笑いする。

須崎専務はバツこそ何個かついてるが今は叔父さん同様、独身貴族だ。

しかも、全くの赤の他人にも関わらずお正月にはうちの実家の集まりに毎年参加しているという変わり種・・・・。

僕の中で須崎専務は、暇人で厚かましいというレッテルを貼っている。

まあ…、学生時代はお年玉要員として有難かったが。


「今日は会議ではなかったんですか?」


僕は自販機の前で缶コーヒーのボタンを押しながら問い掛けた。


「いやー、あまりにもつまらない話してるもんだから、電話するフリをして抜け出してきた」


このヤル気のない感じは相変わらずだ。


「叔父さんに叱られますよ」


「航が黙っててくれれば、バレないバレない」


僕は軽蔑の眼差しを向けると、自販機で買った缶コーヒーを手に叔父から少し離れたベンチに腰を掛けた。