僕は自分がいた席に戻る道すがら、
ふと倉木リーダーがこちらに視線を注いでることに気づいた。

倉木リーダーは眉間に皺を寄せ、僕に警戒の眼差しを向けている。

きっと僕が秋月先輩に告げ口することを恐れているのだろう。

しかし、そんなことは僕の知ったことではない。

僕はその向けられた視線に鋭い眼差しを返すと、そのまま自分のいた席へと戻って行った。

僕に八つ当たりをしたところで、自分が蒔いた種なのだから。

倉木リーダーがそのまいた種を秋月先輩に正直に打ち明けて回収すれば...


僕が出る幕はない。


そう思っていたのだ...。


その時までは...。


しかし、秋月先輩が倉木リーダーと二人で帰った次の日、目元を腫らして会社に出社してきたのだ。

化粧で何とか隠しているものの、分かるものが見れば分かるだろう。


「先輩っ、おはようございます」


僕は自分の席に向かう秋月先輩に思わず声をかけた。


「朝比奈くん、おはよう···─」


秋月先輩はいつも通りニコリと笑顔で返してくれた。

その痛々しい笑顔が、僕の心をナイフで突き刺すような痛みを与えた。