「ちょッと、声が大きい」

私は口に人差し指を当てながら、辺りを見回す。

「ごめんごめん。一体、誰と浮気してたの?」

栞奈は私に向かって手を合わせて謝ると、小声に戻した。

「沙苗ちゃん...」

私は、そう言って息を吐いた。

「沙苗って、あんのッ、猫かぶり女ッ」

栞奈はみるみるうちに鬼の形相になると、「ちょっと、一発殴ってくる」と
席を立った。

私は「ちょっと、待て待て」咄嗟に栞奈の服を掴んで引き留める。

趣味でボクシングを習ってる栞奈が殴ったら、警察沙汰なるだろう。

「もう、いいよ。」


「何がいいのよ。あの女、柚葉の彼だと分かってて手を出したのよ。」


「それは分からないよ。快斗から先に声を掛けたのかもしれないし..」


「そんなわけないでしょ。あの女が言い寄ったに決まってるじゃない。」


栞奈は興奮して徐々に声が大きくなってくる。