最近、皐月くんのスキンシップ(?)というか、愛情表現(?)が過激になってきている。

 会うたび、口癖みたいに「かわいい」といってくる。
 少し近づくと「かわいい匂い」とくんくんしてくる。

 恥ずかしいし変な匂いじゃないか不安になるのに、やめてといっても「かわいい」というばっかりでやめてくれない。

 かわいい匂いってどういう匂い……?

 バニラとかいちごみたいな匂い? でも自分からそんな匂いがしている気はしない。体から匂うほどバニラもいちごも食べてない。

 あ、でも思えば、実際にそれほど強い匂いがあるのなら、お父さんでもお母さんでも、家で誰かしら教えてくれるはず。それがないってことは、そんなに気にすることないのかな……? 学校でも避けられることもないし、みんな目も合わせてくれる。

 「紺谷」と声をかけられて、見れば青柳くん。

 「きょうはノート間に合ってる?」というやさしい声に、「うん、大丈夫だよ」と答える。

 「ほんとうにありがとうね」

 「全然、大したことじゃないよ」と青柳くんはさわやかに、懐っこくほほえんで首をふる。

 「たしかに、紺谷ってかわいいね」

 「え?」

 「ほら、雪森が紺谷にげろ惚れなのは明らかじゃん?」

 「げろ……?」

 「べた惚れっていうの? もうぞっこんって感じでさ? でも、ちょっと話してみるとわかるね。紺谷はかわいいよ」

 「そう……?」

 ふと、青柳くんに聞いてみようかなという気になった。

 それに気づいたみたいに、青柳くんは「ん?」と首をかしげる。「どした?」と。

 「……あの、……その、わたしって……」

 「うん」

 「……へ、んな匂い……する……?」

 「匂い?」

 「うん……。なんかちょっと気になって……」

 「誰かにいわれたの?」

 「いや、くさいっていわれたんじゃなくてね。でもなんか、ちょっと気になるから……」

 「うーん……。僕はなにも感じたことないよ。……嗅いでみてもいい?」

 「……うん……」

 皐月くんに嗅がれることより恥ずかしいことなんてない。

 大丈夫、大丈夫と自分にいい聞かせる。

 青柳くんはそっと近づいて、すんすんと鼻を鳴らす。

 「ん……? なにも匂わないよ。あえていうなら、シャンプーとかの匂いは感じなくもないけど。それ以外は特になにも」

 「そう……。ごめんね、変なことさせちゃって。ありがとう」

 「全然」とさわやかに笑う青柳くんにもう一度お礼をいう。

 青柳くんはふっとドアのほうを見ると、「またね」と軽く手をふっていってしまった。

 「あ、痛っ」と青柳くんが向かったほうから青柳くんの声がする。「なに雪森」ととまどった声がつづく。