ぽっちゃり天使!〜美人好きの雪森くんの様子がおかしいんです…〜

 小さな公園に入って、自動販売機で飲みものを買った。ベンチに並んで座る。

 「鳥の声って、意外と常に聞こえてるんだね」

 散歩の間できがついたことをいってみた。

 「そうでしょ、どこかしらから、なにかしらの声が聞こえるの」

 「風も、思ったよりずっと吹いてる。まるで風が吹いてないのって珍しいんじゃないかと思うくらい」

 そういう今も、かすかな風が吹いている。

 「うんうん」と莉央はうなずいてくれる。「急にちょっと強いのが吹いてきたりしてね」

 「外って、思ったより騒がしい」

 「……好きじゃない?」

 「ううん、そんなことない。おもしろいなって思った。普段、なんにも聞いてないんだなって思って」

 「ほとんどの音が、意識しないと聞こえないよね」

 突然、クラクションの音が響いた。莉央と同時にびくりとした。

 「いろんな音に耳澄ませてるときにああいう音、心臓に悪い」

 「ほんとう」と莉央も笑う。

 「ねえ、莉央」

 名前を呼ぶと、「うん?」と天使が振り返る。

 「莉央の音、聞きたい」

 「どうやって?」と小首をかしげる莉央に、「こうやって」と答えながら、体を抱き寄せて、ふっくらした肩のあたりに耳をあてる。胸はよくないと思ったから、ちょっと場所をずらした。

 それでも、たしかに聞こえてくる。莉央の音。莉央の中を、あたたかなともしびが巡っている音。とくん、とくん、とくん……。

 「莉央が生きてる音。あったかい音」

 「心臓の音?」という声も、体に響いて聞こえる。

 俺は莉央に触れている音をいとおしく思いながら、「うん」と答える。

 「わたしもあとで、皐月くんの音聞きたい」

 「うん」

 とくん、とくん、とくん……。

 おだやかで力強い、あたたかく、大切な音。

 そっと耳を離すと、今度は莉央が俺を抱き寄せた。かわいらしい横顔が胸元にあてられる。

 「ほんとうだ」と莉央はいった。「あったかい音。……幸せの音」