強く正しく美しくと意識はしても、俺はたしかに莉央と青柳が一緒にいるのを見て嫉妬に駆られたわけで。

 小さく咳払いと咳を繰り返しながら莉央がやってくるまで、自転車置き場で待っていた。

 「お疲れさま」と声をかけると、莉央は「さ、皐月くん……!」とかわいい声をあげてやわらかそうなほっぺたを赤らめた。

 ああもう……ほんっとかわいい……。

 「どうしたの?」

 「待ってたの」

 「なんかあったの?」

 そりゃあもう。

 「ううん、ちょっと妬いただけ」

 「やいた……?」

 俺は莉央のそばに寄って、かわいいやわらかさとかわいい匂いを抱きしめた。

 「ああ……いい匂い……」

 「や、だから嗅がないで……! あ、汗、かいたし……」

 「莉央の汗は莉央の匂い」

 「だから嫌なの……!」

 「莉央の匂いはかわいい匂い」

 「もう……変態……」

 「変態は嫌い?」

 「……嫌い……」

 「意地悪だね」

 「……変態は嫌いだけど、……皐月くんは好き」

 ああ、出た。天使。ほら、莉央の背中に羽が出てきた。ああもう、かわいい。

 「俺のこと好き?」

 「……うん……」

 ああ……昼休み耐えてよかった……‼︎ これはそのご褒美に違いない!

 「……皐月くんもなんか匂いする」

 あ、やべ、と声が出そうになるのをこらえて、さりげなく体を離そうとするも、莉央がきゅっと腕を回してきた。

 危険だ。これは危険だ。恥ずかしさで気が変になりそう。

 「……皐月くん、おもしろい匂い……」

 「……ん……?」

 なんて……?

 「甘いようなしょっぱいような、あとちょっと砂の匂い。おもしろい匂い」

 違うよ莉央、それはただの部活終わりの汗とほこりにまみれた匂いだよ。

 「くさいよ」といって、かわいらしい背中をとんとんと叩くと、「嫌いじゃない」とかわいい声がする。

 ああ、俺も青柳みたいに、プロ目指してみようかな……。いや、さすがに舐めてるかな。

 「部活、楽しかった?」と莉央の声。

 「今ほどじゃないかな」と答えて、やっぱり俺はプロを目指すって感じじゃないなと再確認する。プロを目指すには、それになににも代えがたい価値を見つけなきゃいけない。プロ野球選手になるという小さな夢の価値は、莉央と一緒にいるという現実の価値にあっけなく負けてしまった。

 「ねえ、皐月くん」

 「うん?」

 「やいたって、なに?」

 「うーん、なんだったかな。俺も忘れちゃった」

 莉央は「ふふっ」と笑うと、「変なの」と笑っていった。

 「そういえばね、皐月くん」

 「どうした?」

 「きょう、忘れちゃいけないことがあったよ」

 「うん?」

 「青柳くんが、授業中に書き終わらなかった分のノートを見せてくれたの。青柳くんからの恵みだよね」

 ああ、あれそういう場面だったのか……。

 「莉央」

 「うん?」

 「妬いた」

 「……?」