「ブライアンのほうが先に本気になってきた感じするよね」と、皐月くんはふっと冷静になっていった。
「うん、そうだね……」
「やっぱり、俺が印象に残ったのは——」
「あっ……!」
この流れ、知ってる……!
『俺、すごい印象に残ってる場面があるんだけど』と、皐月くんはきょう、部屋に入って開口一番そういった。そして、わたしを抱きあげてベッドに放り投げて……。
「や、やっぱり隣国でのアクションシーンはすごかったね……!」
「どうしたの、莉央?」と皐月くんは意地悪な顔をする。
「なんか動揺してる?……もしかして、さっきのこと思い出しちゃった?」
ああもう……すごい気にしてるみたいになっちゃった……わたしのばか……!
「そっ……な、んのこと……?」
「覚えてないんじゃあ残念だな……せっかくプロポーズしたのに……。思い出してもらうにはやっぱり……もう一回するしかないかな?」
「なっ……覚えてる、覚えてます! 覚えてるから……!」
「あーあ、かわいい。もっと意地悪したくなる」
「しないで……!」
「そうだね」と、意外とあっさり引きさがる皐月くん。
嫌がりすぎたかな……でも恥ずかしすぎるし……。
「莉央の顔が赤い理由が変わる前に、おとなしくしておくよ」
へらりというか、ふわりというか、きらりというか……。とにかくそんな感じで笑っていわれると、また一層顔が熱くなる。
「アクションってあれだよね、オリヴィアが好きなレオナルドが派遣された隣国の戦いのところだよね」
「え、あ、……そう、そこ」
「はあ、意地悪したい。正直ちょっと、小説のことどうでもよくなってきてる」
「え、いや、話そうよ……」
「意地悪してからじゃだめ?」
「だ、だめです……だめに決まってるでしょ……!」
「ああかわいい。ほんと天使」
「……ねえ、皐月くんは……」
「うん?」
「なんでそんなに、わたしのことかわいがってくれるの……?」
「かわいいから」と即答。
「その、……気づいたらこんなふうに接してくれてたけど……」
「きっかけってこと? 一目惚れ」
「へ、変人……!」
「目きれいだしお口かわいいし、すぐに天使だと思った」
「……!」
「ほんとに、莉央以上の美人っていないと思う」
「……皐月くんのいう美人って、性格のことなんでしょう……? わたし、そんなに性格よくないよ……」
「性格のいい人は自分で性格がいいとかいわないよ」
「……。そ、その、そんなに性格を重視するのって、なにか理由があるの……?」
「我が家の教育方針かな? 一日に二回は『ぶすにはなっちゃだめだよ』っていわれて育ったから。『ぶす?』って聞いてみたら、『性格の悪い人のこと』って」
「……そ、それはお母さんが……?」
「うん。『性格の悪い人って?』って聞いたら、『自分のことしか考えられないおばかさん』って。
強く正しく美しく。『自分でいったことやったことには責任を取れる強い人になりなさい』『後悔する必要の、嘘をつく必要のない正しい人になりなさい』『人のためを思える美しい人になりなさい』。これがうちの三つの令。
でも俺、わがままで人のこと考えられてないし、決して美人じゃないんだよね。やったことの責任は取るつもりでいるけど、どっか後悔しないことと謝らないことを履き違えてる気がするし」
相談室で、先生と三人で話した日のことが思い出される。
わたしには、皐月くんは立派に見える。でも皐月くんは、決してそうは思っていない……。
「中学を卒業するまでには、この三つの令を守れる人になっていたいんだよね。どうだろ、無理かな。責任を取るってさ、自分の非を認めるってことでしょ? 自分の非を認めたら、まず謝るもんなんだよね。
正しいことには胸張って、間違ったことには謝って、人からの恵みには感謝して、忘れないで。……こういうことなのかな」
「人からの恵み?」
「ほら、一緒になにかをやってくれたとか、なにかをくれたとか。そういうことに感謝するのって、相手のことを考える、思うことがないとできないと思わない? ああこの人は自分のためにしてくれたんだって思えないと、『ありがとう』って出ないと思うんだよ。
そして、そのありがたみを忘れないでいることは、常にその人のことを思ってる、考えてるってことになる。そうすると自然と、その人の求めてるものがわかる。ちょっと困ってそうだなとかさ。それがわかれば、そのときにその人になにができるかって考えられる。人のためを思える」
「皐月くんはもう、今この瞬間に、三つの令を守れたよ」
強く正しく美しく。その『美しく』の部分は、今皐月くんがいったことがきっと、答えのひとつに違いない。
わたしもちょっと、自分なりに考えてみようかな。
「うん、そうだね……」
「やっぱり、俺が印象に残ったのは——」
「あっ……!」
この流れ、知ってる……!
『俺、すごい印象に残ってる場面があるんだけど』と、皐月くんはきょう、部屋に入って開口一番そういった。そして、わたしを抱きあげてベッドに放り投げて……。
「や、やっぱり隣国でのアクションシーンはすごかったね……!」
「どうしたの、莉央?」と皐月くんは意地悪な顔をする。
「なんか動揺してる?……もしかして、さっきのこと思い出しちゃった?」
ああもう……すごい気にしてるみたいになっちゃった……わたしのばか……!
「そっ……な、んのこと……?」
「覚えてないんじゃあ残念だな……せっかくプロポーズしたのに……。思い出してもらうにはやっぱり……もう一回するしかないかな?」
「なっ……覚えてる、覚えてます! 覚えてるから……!」
「あーあ、かわいい。もっと意地悪したくなる」
「しないで……!」
「そうだね」と、意外とあっさり引きさがる皐月くん。
嫌がりすぎたかな……でも恥ずかしすぎるし……。
「莉央の顔が赤い理由が変わる前に、おとなしくしておくよ」
へらりというか、ふわりというか、きらりというか……。とにかくそんな感じで笑っていわれると、また一層顔が熱くなる。
「アクションってあれだよね、オリヴィアが好きなレオナルドが派遣された隣国の戦いのところだよね」
「え、あ、……そう、そこ」
「はあ、意地悪したい。正直ちょっと、小説のことどうでもよくなってきてる」
「え、いや、話そうよ……」
「意地悪してからじゃだめ?」
「だ、だめです……だめに決まってるでしょ……!」
「ああかわいい。ほんと天使」
「……ねえ、皐月くんは……」
「うん?」
「なんでそんなに、わたしのことかわいがってくれるの……?」
「かわいいから」と即答。
「その、……気づいたらこんなふうに接してくれてたけど……」
「きっかけってこと? 一目惚れ」
「へ、変人……!」
「目きれいだしお口かわいいし、すぐに天使だと思った」
「……!」
「ほんとに、莉央以上の美人っていないと思う」
「……皐月くんのいう美人って、性格のことなんでしょう……? わたし、そんなに性格よくないよ……」
「性格のいい人は自分で性格がいいとかいわないよ」
「……。そ、その、そんなに性格を重視するのって、なにか理由があるの……?」
「我が家の教育方針かな? 一日に二回は『ぶすにはなっちゃだめだよ』っていわれて育ったから。『ぶす?』って聞いてみたら、『性格の悪い人のこと』って」
「……そ、それはお母さんが……?」
「うん。『性格の悪い人って?』って聞いたら、『自分のことしか考えられないおばかさん』って。
強く正しく美しく。『自分でいったことやったことには責任を取れる強い人になりなさい』『後悔する必要の、嘘をつく必要のない正しい人になりなさい』『人のためを思える美しい人になりなさい』。これがうちの三つの令。
でも俺、わがままで人のこと考えられてないし、決して美人じゃないんだよね。やったことの責任は取るつもりでいるけど、どっか後悔しないことと謝らないことを履き違えてる気がするし」
相談室で、先生と三人で話した日のことが思い出される。
わたしには、皐月くんは立派に見える。でも皐月くんは、決してそうは思っていない……。
「中学を卒業するまでには、この三つの令を守れる人になっていたいんだよね。どうだろ、無理かな。責任を取るってさ、自分の非を認めるってことでしょ? 自分の非を認めたら、まず謝るもんなんだよね。
正しいことには胸張って、間違ったことには謝って、人からの恵みには感謝して、忘れないで。……こういうことなのかな」
「人からの恵み?」
「ほら、一緒になにかをやってくれたとか、なにかをくれたとか。そういうことに感謝するのって、相手のことを考える、思うことがないとできないと思わない? ああこの人は自分のためにしてくれたんだって思えないと、『ありがとう』って出ないと思うんだよ。
そして、そのありがたみを忘れないでいることは、常にその人のことを思ってる、考えてるってことになる。そうすると自然と、その人の求めてるものがわかる。ちょっと困ってそうだなとかさ。それがわかれば、そのときにその人になにができるかって考えられる。人のためを思える」
「皐月くんはもう、今この瞬間に、三つの令を守れたよ」
強く正しく美しく。その『美しく』の部分は、今皐月くんがいったことがきっと、答えのひとつに違いない。
わたしもちょっと、自分なりに考えてみようかな。



