「ニーナたちは、お屋敷で賑やかに、平和に暮らしてたね」とわたし。

 「でも突然、ニーナが見知らぬ男の人に結婚を申しこまれる」

 わたしはいいながら、ブライアンとニーナの名前を線でつなぎ、線のそばに『こん約』と書いた。婚約。読めるけれどぱっと書けない。

 「結婚を申しこんできたのはブライアン」

 「ブライアンは自分の仕えてる王の命令で、祖国の公爵令嬢に結婚を申しこんだ」

 皐月くんは隣国の王の名前とブライアンの名前を線でつなぎ、『ニーナとの結婚を命令』と書いた。結婚の婚、婚約の婚、これだ!

 「王さまもまた困ってたもんで、ブライアンの祖国とか自分の国とは違う、また別の国にびびらされてるんだよね」

 皐月くんが王の名前から線を伸ばし、新しい名前を書いて『不仲』と書いた。

 「王さまがほしかったのは、ブライアンの国の力」

 わたしはいいながら、隣国の王の名前をブライアンの祖国の王の名前に矢印を向け、『力がほしい』と書いた。

 「そういえば、ブライアンの国の王さまと王妃さまの間に子供がいないんだよね」

 わたしはさらに、国王夫妻の名前を結んである線の下に『子どもはいない』と書いた。

 「だからこそ、隣国王はブライアンを、国王の姪っ子のニーナと結婚させようとした」

 「うんうん」

 「これでとりあえず……ブライアンとニーナに入っていいのかな」

 「うん。それでさ、ちょっとかわいかったのが、チェスターのクリスへの当てつけみたいなやつ」

 「ああ、あの俺はまだ可能性があるけどおまえはなあ……みたいなやつね」

 「そうそう。またいい感じにクリスが反応しちゃうのがたまんない」

 「『オリヴィアさまにも、今にふさわしい男が現れる』ってね」

 「そしてとどめの『庭いじり以外にもできることがたくさんある男だ』って」

 「子供だよね」と笑う皐月くんに、「ほんとうにかわいかった」と笑い返す。

 「もう嫌味もいえなくなっちゃってね」と皐月くんは笑う。「敵わないってわかった途端『ばーか』っていって逃げてく子供みたい」

 「普段冷静なクリスがねえ……。いっそ、ニーナと幸せになってほしかった」

 「純粋な人だよね、クリス」

 「そういえば、チェスターはなんでブライアンが王妃さまの甥だってわかってたんだろう」

 「あれじゃん、チェスターは前に、ブライアンの家で働いてたじゃん。でもブライアンが生まれた直後に、ほかの使用人の女の人に好かれちゃって、追い出された」

 「ああ、そうか!」

 「しかもその女がなかなかのぶすでさ、告って断られた腹いせにチェスターを追い出したじゃん。ひどいことされましたーってあることないこといってさ」

 「そうそう、思い出した」

 「主要人物の数も話の長さも結構なもんだからね」といってくれる皐月くんと話し合って、お互いに忘れていたところや勘違いしていたところを確認しながら、紙に情報を書きこんでいった。