さて、日曜日。

 わたしはやっぱり皐月くんの部屋にいる。

 ——のは、いいんだけど。

 ふわっと体が浮いて、「きゃっ」と甲高い声が飛び出す。

 皐月くんの腕の中で、ソファにでも座っているみたいな体勢。——お姫様……抱っこ。

 「こうして階段をのぼって」と皐月くんの声が囁く。

 またふわっと体が浮いて、かと思えば、どすんと背中から着地する。

 「ベッドにヒロインをちょっと乱暴に寝かせて」と皐月くんの静かな声。

 どくんどくんといううるさい心臓の音に紛れて、ベッドが軋む音が聞こえる。そして開いたままどうしようもない目は、間近に皐月くんの顔を見ている。

 そっと、唇に指がふれる。くすぐったい。

 「ヒーローが覆いかぶさって、ヒロインにキスをする」

 「は、え、あ……う、ん……」

 「したいね、キス」

 「は……⁉︎」

 「ヒーローはヒロインにキスをするものだよ」

 「……!」

 「キスをしてさ、かわいいほっぺたと、やわらかい首と、……大好きなヒロインを形作る、ふれられるところの全部に、さわる」

 皐月くんは唇から指を離すと、さわさわとほっぺたをくすぐるように撫でてくる。

 「莉央かわいい」とひとりごとみたいにいう。

 それから皐月くんは「早く、おとなになりたい」とつぶやく。

 「おとなになれば、莉央と結婚できる」

 「……結婚、……するの?」

 「莉央が嫌じゃなければ。……人生百年っていうけど、百年も莉央の気、引いていられるかな」

 「ここから百年なの?」とわたしは笑い返す。「百十歳超えちゃうよ」

 「俺は莉央といる時間が、ここから百年でも足りない。鶴みたいに千年、亀みたいに万年、いたい」

 「……そんなうちに、……皐月くんのほうがわたしに……飽きちゃうよ」

 「俺はそんなに、不幸かな。莉央のかわいさすらもわからなくなっちゃうほどに?」

 「わたしはそんなに幸せかな。千年万年と皐月くんの気を引いていられるほどに?」

 何秒かの静けさのあと「ねえ、莉央」と皐月くんがやさしい声でわたしを呼んだ。

 「ぎゅう、したい」

 「……うん」

 皐月くんはわたしの髪の毛を撫でると、背中とベッドの間にそっと腕を差しこんで、ぎゅっと抱きしめてくれた。

 「ふふっ」と笑うから「ん?」と聞いてみると、「莉央、かわいい匂い」なんていう変態な皐月くん。

 「嗅がないでよ……」