土曜日。玄関で「よっ」と迎えてくれた皐月くんに、「よっ」と答えてみると、「かわいい」と笑われた。

 皐月くんの部屋で、やっぱりわたしたちは、テーブルをはさんで向かい合う。

 「なんか緊張するね」と皐月くんは笑う。その笑顔が、なんだかちょっとかわいらしい。

 「読書会って、どんな感じなんだろうね」とわたしも笑う。

 とりあえず、トートバッグに携帯とお財布と一緒に入れてきた文庫本を、テーブルに出してみる。皐月くんと本屋さんでばったり会ったときに、買ってもらった一冊。宝物の一冊。

 急に電話がかかってきたかと思えば、開口一番『しあわせは月明かりに抱かれて』を俺も買ったんだという皐月くん。

どうしたのかと思いつつ、すごくよかったよと答えれば、興奮冷めやらぬ声で語り合おう!と。

 それがついさっき、一時間くらい前のこと。

 「ていうか、ごめんね、急に呼び出したりして」

 「ううん、大丈夫だよ。ちょっとびっくりしたけど、嬉しかった」

 休みの日にまで、皐月くんに会えるのが。

 皐月くんはほんのりほっぺたを赤くして、「よくなかった? よかったよね」といった。ほっぺたが赤みを帯びているのは、まだ読後の興奮が残っているからなんだろう。

 「うん、すごくよかった」

 「シャロンかわいすぎない? なにあれ、天使? 妖精? あんな人に好かれてるヴィンセント、幸せすぎでしょ」

 皐月くんにそんなにかわいがられてるシャロンだってずっと幸せ者だよ、と思いつつ、うんうんと笑って答える。

 わたしもシャロンくらいかわいくならないとね、と冗談をいえるほどの自信がほしい。そういって返ってくるのが、もう十分かわいいよとか、そんなやさしさであるという確信がほしい。……なんて、こんなうじうじしてたら、嫌われちゃうかな。

 「たしかにシャロンは素敵だった。でもなあ、わたしはジュネヴィエーヴとジョシュアのカップルも好きだったよ」

 「ジュネヴィエーヴなあ……ちょっとジョシュアに惚れるの早くなかった?」

 ジュネヴィエーヴはヴィンセントの幼なじみで、ずっとヴィンセントのことが好きだった。でも思いを打ち明けるより先に、ヴィンセントはシャロンと出会い、そのふたりの恋が結ばれてしまう。

 失恋したジュネヴィエーヴは喫茶店での仕事に集中し、その傷の癒えるのを待とうとする。そんな中、お客さんとしてお店に訪れたジョシュアに出会い、好意を伝えられるうちにジョシュアに惹かれていき、芽生えた恋は実を結ぶ。